|
|
2008年6月10日、Xは、自己所有の土地甲と乙を不動産業者Aに売却し、移転登記をしたが、この売買契約は、25歳になるXの娘Bの狂言誘拐事件においてXがやむなく締結したものであった。同年6月22日、Bの誘拐が狂言であったと知ったXは、同月23日、Aに対して売買契約を取り消し、甲・乙の返却を求める内容証明郵便を送り、この郵便は同日、Aに到着した。しかし、甲は、すでに同月20日にY1に転売されて23日には移転登記がされていた。また、同月26日にAは、Xの取消しの意思表示を無視して、それ以前から売買交渉をしていたY2に乙を転売する契約を結び、27日にはY2への移転登記がされてしまった。Xは、甲・乙を取り戻すことができるだろうか。
〔警察の事情聴取などによって判明した事実と本件紛争の経緯〕
2008年5月22日 Bが1か月の予定でイタリアへ出発。
5月30日 AがXに甲・乙土地の売却を求めたがXは拒否
6月 3日 X宅にBから誘拐されたと国際電話。B自身の声で、Xの所有地甲・乙ほか10筆の土地を1か月以内に売却して身代金20億円を用意するよう犯人に言われているとのこと。同日、Xは警察に通報。
6月 4日 Bから、家族しか番号を知らない携帯電話に「本当は誘拐なんかされていません。元気です。驚かせてごめんね」とのメールが入っていたが、動転していたXは、22日までBからメールが来ていたことを知らなかった。
6月10日 XがAとの甲・乙の売買契約を締結。Aは、短期間でのXの翻意に驚いた。しかし、Xが甲・乙以外の所有不動産も売りたがっていたことから、何か大きな資金を要する事情が生じたものだと納得。Aは、転売が容易な好物件として長年目を付けていた甲・乙は買い受けたが、それ以外の物件の買取は拒絶。即日甲の引渡しと移転登記を完了。代金決済は月末を予定。
6月12〜15日 Aが複数の顧客に甲・乙の売り込み交渉。Y1・Y2から好感触の返事を得て、売買契約を結ぶことに合意。
6月20日 AがY1と甲の売買契約を締結。23日に移転登記をして代金を決済し、甲を引渡し。AもY1も誘拐事件のことは不知。
6月22日 Bが帰国。以後、何日か関係者に事情聴取が行われ、本件は、Bの冗談が大事に発展したもので、AやYらとBの間には何の関係もないことが判明したため、刑事事件として立件しないことで決着。なお、Bの帰国前は誘拐事件として報道管制が敷かれ、真相判明後は、関係者のプライバシーに配慮して、この事件の報道はいっさい行われなかった。
6月23日 XがAに対して売買契約の取消しの意思表示。Y1に転売済でY2とも26日の契約締結を予定していたAは、抗議し取消しの有効性を争う構え。
6月26日 AがY2と乙の売買契約を締結。27日に移転登記をして代金を決済し、乙を引渡し。AはY2にはXから取消しの意思表示が来ていることを黙し、Y2は誘拐事件についてまったく不知。
6月30日 AからXに代金支払の提供がされるが、Xは受領を拒絶した。Xは、同日、甲・乙がすでにYらに転売され移転登記をされていることを知った。
8月 4日 Xが甲・乙につき、処分禁止の仮処分を申請し認められた。
8月 5日 Xが、Yらを被告として本件訴訟を提起した。
|
|